• 2026年10月20日

糖尿病性腎症について【糖尿病専門医が解説】

糖尿病で治療中に、

「尿検査でたんぱくが出ていると言われた」

「血液検査で腎機能が悪くなっていると指摘された」

「血糖値はそれほど悪くないのに、腎臓が悪くなることはあるの?」

そのような疑問をお持ちではありませんか?

糖尿病が長く続くと、腎臓の細い血管などが障害され、尿中にアルブミンというたんぱく質が漏れ出たり、腎臓の働きが低下したりすることがあります。これを代表的な糖尿病合併症の一つである「糖尿病性腎症」といいます。

糖尿病性腎症は、初期には自覚症状がほとんどありません。しかし、進行すると慢性腎臓病(CKD)や腎不全につながり、将来的に透析療法が必要になることもあります。

一方で、早い段階から適切に血糖値や血圧を管理し、腎臓の状態に応じた治療を行うことで、進行を抑えられる可能性があります。

今回は、糖尿病性腎症の原因、検査、病期分類、治療について、糖尿病専門医の立場から解説します。


糖尿病性腎症とは?

腎臓は、血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として排泄する臓器です。さらに、体内の水分や電解質の調節、血圧の維持、赤血球をつくる働きに関わるホルモンの産生など、重要な役割を担っています。

糖尿病によって高血糖の状態が長く続くと、腎臓の糸球体と呼ばれる細かな血管の集まりなどに障害が起こります。その結果、尿中にアルブミンが漏れ出るようになり、進行すると腎臓のろ過機能が低下していきます。

このように、糖尿病に伴って腎臓に障害が生じる病気が糖尿病性腎症です。

ただし、糖尿病のある方に生じる腎臓病が、すべて典型的な糖尿病性腎症とは限りません。高血圧、加齢、肥満などが関係して腎機能が低下する場合や、糖尿病とは別の腎臓病を合併する場合もあります。

そのため、糖尿病のある方では、糖尿病性腎症だけでなく、糖尿病に関連する幅広い腎臓病を考慮して評価することが重要です。


糖尿病性腎症は初期には症状がほとんどない

糖尿病性腎症の特徴は、初期には自覚症状が乏しいことです。

初期には、尿中アルブミンが増加していても、むくみや体調の変化を感じないことが少なくありません。また、腎臓のろ過機能を示すeGFRが正常範囲内でも、尿検査で異常が見つかる場合があります。

腎機能が低下してくると、

  • 足や顔のむくみ
  • 尿量の変化
  • 疲れやすさ、倦怠感
  • 食欲低下、吐き気
  • 貧血に伴う息切れや動悸

などの症状が現れることがあります。

ただし、これらの症状は腎臓以外の病気でもみられます。また、腎機能がかなり低下していても、初期には明らかな症状が出ないことがあります。

そのため、症状がないからといって、腎臓に問題がないとは限りません。

糖尿病のある方は、定期的に尿検査と血液検査を受け、腎臓の状態を確認することが大切です。


診断に重要な尿検査・血液検査

糖尿病性腎症の評価では、主に尿検査と血液検査を行います。

尿中アルブミン検査

アルブミンは血液中に多く含まれるたんぱく質です。通常、腎臓でろ過されても尿中にはほとんど漏れ出ませんが、腎臓の糸球体に障害が起こると、尿中への排泄が増加します。

尿中アルブミン検査は、糖尿病性腎症の早期発見に重要な検査です。

特に、尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)は、尿中のアルブミン量を尿中クレアチニン量で補正した指標です。尿の濃さによる影響をある程度補正でき、腎障害の評価や治療効果の判定に役立ちます。

尿中アルブミンが増加していても、初期には一般的な尿たんぱく検査で異常が出ないことがあります。そのため、糖尿病性腎症の早期発見では、必要に応じて尿中アルブミンを測定することが重要です。

なお、尿中アルブミンは、発熱、激しい運動、尿路感染症、著しい高血糖などによって一時的に増加することがあります。異常値が出た場合には、採尿時の状況を確認し、必要に応じて再検査を行います。

血清クレアチニン・eGFR

血液検査では、血清クレアチニン値などから推算糸球体濾過量(eGFR)を算出し、腎臓が血液をろ過する能力を評価します。

eGFRは、腎機能が低下するほど低くなります。ただし、筋肉量などの影響を受けるため、数値だけでなく、過去からの変化や尿検査の結果と合わせて判断します。

尿中アルブミンが増加していても、eGFRが保たれている場合があります。一方、尿中アルブミンが目立たないまま腎機能が低下する方もいます。

尿検査と血液検査を組み合わせて評価することが、腎臓の異常を早期に発見するために重要です。

血糖値・HbA1c・血圧

腎臓を守るためには、血糖値だけでなく血圧の管理も重要です。

高血糖が続くと腎臓の血管に負担がかかり、高血圧が合併すると腎機能低下が進みやすくなります。

そのため、診察ではHbA1cや血糖値、血圧、脂質、体重なども確認し、腎臓の状態と将来的な心血管疾患のリスクを総合的に評価します。


糖尿病性腎症の病期分類

糖尿病性腎症の病期分類には、尿中アルブミンや尿たんぱくの量、eGFRが用いられます。

主な分類は以下のとおりです。

  • 第1期:正常アルブミン尿期
  • 第2期:微量アルブミン尿期
  • 第3期:顕性アルブミン尿期
  • 第4期:GFR高度低下・末期腎不全期
  • 第5期:腎代替療法期

第1~3期は主に尿中アルブミン・尿たんぱくの量とeGFRで分類され、第4期はeGFRが30 mL/分/1.73m²未満であることが基準となります。第5期は透析療法中、または腎移植後の段階です。

第1期:正常アルブミン尿期

尿中アルブミンが基準範囲内で、eGFRが30 mL/分/1.73m²以上の段階です。

この時期は尿検査で異常が認められないことも多いですが、高血糖や高血圧などによる腎臓への負担を完全に否定できるわけではありません。

血糖値や血圧を適切に管理し、定期的に尿検査と血液検査を受けることが大切です。

第2期:微量アルブミン尿期

尿中アルブミンが30~299 mg/gCrに増加している段階です。eGFRが保たれていても、腎臓に障害が生じ始めている可能性があります。

この段階で血糖値や血圧を適切に管理し、必要に応じて腎臓を保護する治療を行うことが重要です。

第3期:顕性アルブミン尿期

尿中アルブミンが300 mg/gCr以上、または尿たんぱく・クレアチニン比(UPCR)が0.5 g/gCr以上で、eGFRが30 mL/分/1.73m²以上の段階です。

腎機能低下のリスクが高くなるため、血糖値や血圧を含めた総合的な管理が必要です。腎機能の推移によっては、腎臓内科への紹介を検討します。

第4期:GFR高度低下・末期腎不全期

eGFRが30 mL/分/1.73m²未満まで低下した段階です。尿中アルブミンや尿たんぱくの量にかかわらず、第4期に分類されます。

腎機能の低下に伴い、薬の種類や用量の調整、貧血、電解質異常、むくみなどへの対応が必要になることがあります。腎臓内科と連携し、腎機能の管理や今後の治療方針を検討することが重要です。

第5期:腎代替療法期

透析療法中、または腎移植後の段階です。

透析療法や腎移植後も、血糖値や血圧、脂質などを適切に管理し、心血管疾患を含めた合併症の予防を継続します。

なお、糖尿病性腎症は必ずしも第1期から第5期へ順番に進行するわけではありません。また、病期分類だけでなく、eGFRの推移や尿中アルブミンの変化を継続的に確認することが重要です。


なぜ早期診断が重要なのか?

糖尿病性腎症は、進行すると腎機能を十分に回復させることが難しくなる場合があります。

また、糖尿病性腎症は腎臓だけの問題ではありません。尿中アルブミンの増加や腎機能低下は、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクとも関連しています。

そのため、腎臓の異常を早い段階で見つけ、血糖値、血圧、脂質などを適切に管理することが重要です。


治療はどうする?

糖尿病性腎症の治療では、血糖値を下げることだけでなく、血圧や脂質、体重などを含めた総合的な管理を行います。

血糖コントロール

高血糖が続くと腎臓の血管に負担がかかるため、適切な血糖管理が基本となります。

ただし、腎機能が低下すると、薬によっては体内に蓄積しやすくなったり、低血糖のリスクが高くなったりすることがあります。そのため、腎機能に応じて薬の種類や用量を調整する必要があります。

血糖管理の目標は、年齢、糖尿病の罹病期間、低血糖のリスク、合併症などによって異なります。一律に厳しい目標を設定するのではなく、安全性と継続性を考慮することが大切です。

血圧管理・ACE阻害薬・ARB

高血圧は腎臓の血管に負担をかけ、腎機能低下を進める重要な要因です。適切な血圧管理は、腎臓を守るために欠かせません。

ACE阻害薬やARBと呼ばれる薬は、血圧を下げる作用に加えて、特に高血圧やアルブミン尿を伴う患者さんでは、腎臓を保護する効果が期待できます。

ただし、使用開始時や増量時には、血清クレアチニンやカリウム値などを確認する必要があります。薬の選択や血圧の目標は、腎機能や年齢、併存疾患に応じて判断します。

SGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬は、尿中への糖排泄を増やすことで血糖値を下げる薬です。

薬剤や患者さんの状態によっては、血糖値を下げる作用に加え、腎機能低下や心不全などのリスクを抑える効果も期待できます。

腎臓を保護する作用は、血糖値を下げる効果だけでは説明できず、腎臓の糸球体にかかる圧力を調整する作用なども関係しています。

一方で、脱水や尿路感染症などの副作用に注意が必要です。また、食事が十分に取れない状況や急性疾患時などには、ケトアシドーシスのリスクにも配慮する必要があります。

すべての患者さんに適しているわけではないため、腎機能や併存疾患、使用する薬剤の適応を確認したうえで判断します。

フィネレノン

フィネレノンは、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)です。

主に2型糖尿病に伴う慢性腎臓病の一部の患者さんで、腎機能低下や心血管疾患のリスクを抑える効果が期待されます。

使用にあたっては、腎機能や血清カリウム値、併用薬などを確認する必要があります。高カリウム血症などの副作用に注意し、適切なタイミングで血液検査を行います。

食事療法・運動療法

食事療法では、適正なエネルギー摂取量を保ち、塩分の取りすぎを避けることが基本です。高血圧やむくみがある方では、食塩摂取量にも注意が必要です。

たんぱく質の摂取量については、腎機能や栄養状態、年齢などを考慮して判断します。自己判断で極端にたんぱく質を制限すると、低栄養や筋肉量の減少につながるおそれがあるため、注意が必要です。

運動は血糖値や血圧、体重の管理に役立ちます。患者さんの体調や合併症に応じて、無理のない範囲で継続することが大切です。

また、喫煙は血管障害や心血管疾患のリスクを高めるため、禁煙も腎臓を守るうえで重要です。


当院で注意しているポイント

当院では、糖尿病の診療において血糖値やHbA1cだけでなく、腎臓の状態を継続的に評価することを大切にしています。

特に、

  • 尿中アルブミンや尿たんぱくが増加している
  • eGFRが低下している、または以前より低下している
  • 高血圧を合併している
  • 血糖コントロールが長期間不十分である
  • むくみなどの症状が出現している

といった場合には、腎機能の変化に注意して診療を行います。

また、糖尿病のある方で腎機能が低下している場合、糖尿病性腎症だけでなく、ほかの腎臓病が隠れている可能性も考慮します。血尿を伴う場合や腎機能が急速に悪化する場合などには、腎臓内科と連携して評価・治療を進めます。

腎機能に応じた薬の選択や用量調整、血圧管理、生活習慣の見直しを通じて、腎臓の機能をできるだけ長く維持できるようサポートします。


当院からのメッセージ

糖尿病性腎症は、初期には自覚症状がほとんどない一方で、進行すると腎不全や透析療法につながることがある重要な合併症です。

しかし、定期的な尿検査や血液検査で早期に異常を見つけ、血糖値や血圧を適切に管理することで、進行を抑えられる可能性があります。

糖尿病の治療では、血糖値だけでなく、尿中アルブミンやeGFRなどを確認し、腎臓の状態を継続的に評価することが大切です。

当院では糖尿病専門医として、糖尿病の治療と合併症の予防に取り組んでいます。

健康診断で尿たんぱくや腎機能の異常を指摘された方、糖尿病の治療中で腎臓の状態が気になる方は、お気軽にご相談ください。

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