- 2026年6月3日
緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM・LADA)について【糖尿病専門医が解説】
糖尿病で治療中に、
「HbA1cがどんどん高くなっている」
「食事や運動をしっかりしているし、やせ型なのに血糖値が良くならない」
そのような状況で困っていませんか?
糖尿病の約9割以上は2型糖尿病ですが、なかには発症当初は2型糖尿病のように見えても、実際には自己免疫によって徐々にインスリン分泌能が低下していき、血糖コントロールが悪化する「緩徐進行1型糖尿病(Slowly Progressive Insulin-Dependent Diabetes Mellitus:SPIDDM)」の方がいます。
海外ではLADA(Latent Autoimmune Diabetes in Adults)とも呼ばれています。
診断時に見逃されることも少なくなく、適切な診断と経過観察が大切な疾患です。
緩徐進行1型糖尿病とは?
1型糖尿病は、自己免疫により膵臓のβ細胞が破壊され、インスリン分泌能が低下する病気です。
一般的な急性発症1型糖尿病では、
- 数週間~数か月で急速に進行
- 高血糖による著明な口渇や多飲、多尿症状
- 体重減少
を認め、診断時からインスリン治療が必要となることが多いです。
一方、緩徐進行1型糖尿病では膵臓のβ細胞の破壊が年単位で進行するため、発症初期にはインスリン依存状態になっておらず、2型糖尿病と診断されることがあります。
しかし経過中にインスリン分泌能が徐々に低下し、多くの患者さんでインスリン治療が必要になります。
日本人の糖尿病患者さんにも少なくない
2型糖尿病と診断されている患者さんの数%程度に膵島関連自己抗体陽性例が存在すると報告されています。
特に、
- BMIが低い・やせ型
- 比較的若年~中年発症
- 血糖悪化のスピードが速い
- 他の自己免疫疾患(橋本病やバセドウ病など)を合併
する場合には注意が必要です。
診断に重要な自己抗体検査
緩徐進行1型糖尿病では自己抗体検査が極めて重要で、当院ではGAD抗体を測定しています。
SPIDDM患者さんの多くで陽性となり、GAD抗体価が高い患者さんほど、
- インスリン分泌低下が速い
- インスリン依存状態へ進行しやすい
ことが知られています。
膵島関連自己抗体陽性には他に、IA-2抗体・ZnT8抗体があり、GAD抗体陰性の1型糖尿病診断補助に有用な場合があります。
Cペプチド測定が重要
膵島関連自己抗体だけではなく、「現在どの程度インスリンを分泌できているか」を評価するためにCペプチドを測定します。
Cペプチドとは、膵臓でインスリンが作られる際に、インスリンと等量分泌されるため、「ご自身の膵臓がどれだけインスリンを分泌できているか」を測る指標として、有用です。
なぜ早期診断が重要なのか?
SPIDDMは診断時にはインスリン分泌能が残っており、インスリン依存状態ではないことがほとんどであるため、糖尿病診断初期にはSPIDDMと診断するには難しさがあります。そのため、「2型糖尿病として治療継続」されていることが多くなっています。
しかし病態の本質はβ細胞の自己免疫性破壊で、インスリン分泌能が高度に低下すると、
- 著明な高血糖
- ケトーシス
- 糖尿病ケトアシドーシス(DKA)
へ進展する可能性があります。
また慢性的な高血糖は、他の糖尿病と同様に
- 網膜症
- 腎症
- 神経障害
- 動脈硬化
のリスクを高めます。
治療はどうする?
食事療法・運動療法
糖尿病治療の基本です。
スルホニル尿素薬(SU薬)使用は慎重に
SU薬はβ細胞機能低下を促進する可能性が指摘されており、SPIDDMでは慎重な使用が望ましいとされています。
DPP-4阻害薬
DPP-4阻害薬はインスリン分泌を促す作用があり、インスリン分泌能が低下して発症するSPIDDMの病態にあった薬とも言えます。
インスリン療法
インスリン療法は最も重要な治療選択肢です。
早期から少量の基礎インスリンを導入することで、
- 高血糖による糖毒性改善
- 膵臓のβ細胞負荷軽減
が期待されます。
日本では特にGAD抗体陽性例で、インスリン分泌能低下が認められる患者さんに積極的に検討されます。
緩徐進行1型糖尿病では、自己免疫による膵β細胞の破壊が徐々に進行します。
そのため近年では、単に血糖値を下げるだけでなく、「残っているインスリン分泌能をできるだけ長く維持する」ことが重要と考えられています。
緩徐進行1型糖尿病患者さんを対象に、インスリン治療群とSU薬(スルホニル尿素薬)治療群を比較した臨床研究では、インスリン治療群ではインスリン分泌能の低下が抑制され、インスリン依存状態への進行も少ない一方で、SU薬治療群では膵β細胞機能の低下がより速く進行する傾向がみられました。
そのため、緩徐進行1型糖尿病では、SU薬の使用を控え、早期からインスリン治療を検討する意義があります。
GAD抗体陽性でインスリン分泌能の低下が認められる患者さんでは、早期からインスリン治療を考慮することが推奨されています。
インスリン治療というと、「糖尿病が重症になってから始める治療」というイメージを持たれる方も少なくありません。しかし緩徐進行1型糖尿病では、残っている膵臓の機能を守る目的で早期から導入する場合があります。
当院で注意しているポイント
- BMIが低い
- HbA1cが急速に悪化
- 家族歴が乏しい
- 自己免疫疾患を合併
- Cペプチドが予想以上に低い
といった場合にSPIDDMの可能性を考慮しています。
特に橋本病やバセドウ病で通院中の患者さんが糖尿病を発症した場合には、2型糖尿病と決めつけず自己抗体検査を検討します。
当院からのメッセージ
糖尿病にはさまざまな病型があり、すべてが生活習慣病というわけではありません。
緩徐進行1型糖尿病は発症初期には2型糖尿病と見分けがつきにくい一方で、その後の治療方針に大きく関わる重要な病態であり、できるだけ早くに疑って診断することが大切です。
当院では糖尿病専門医として、糖尿病の病型診断にも力を入れています。
健康診断で血糖異常を指摘された方や、治療中にもかかわらず血糖コントロールが悪化している方は、お気軽にご相談ください。
まとめ
- 緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)は自己免疫が原因の糖尿病です。
- 初期には2型糖尿病との鑑別が難しいことがあります。
- GAD抗体をはじめとした膵島関連自己抗体検査が診断に重要です。
- Cペプチド測定によりインスリン分泌能を評価します。
- 橋本病やバセドウ病などの自己免疫疾患を合併しやすい特徴があります。
- 適切な診断と早期介入が将来の血糖コントロールに重要です。